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2025.04.12

現代に挑む英国の伝統的スポーツカー、モーガン「プラスフォー」を味わう

 
その姿を前にすると、なぜか胸が熱くなる。懐かしさと愛おしさがないまぜになり、思わず目尻が下がる。かつて所有していたわけでもないのに、たとえば小犬を見つめるようなやさしい眼差しを向けてしまうのだ。きっと誰もが、そんな感情に包まれるに違いない。モーガン「プラスフォー」。AIで未来のモビリティが描けてしまうこの時代にあって、90年ほど前に誕生したクラシカルな姿を守り続ける、英国の伝統的スポーツカーだ。

モーガン・モーター・カンパニーは、英国中部ウスターシャー州マルヴァーンに本拠を構える老舗スポーツカーメーカーである。その歴史は110年以上に及び、創業初期にはモーターサイクルのコンポーネンツを転用した〝サイクルカー〟の製造からスタートした。これが後に同社の象徴となる「スリーホイーラー」として結実し、さらに四輪モデルの製作へと発展。1936年には4輪・4気筒を意味する「4/4(フォー・フォー)」が誕生した。

4/4は〝ペリメーターフレーム〟と呼ばれる軽量・低コストな構造に木材を構造材として用い、そこにアルミパネルを貼り付けてボディを形成するという製法で作られていた。ロングノーズにショートデッキという古典的なスタイリングをまとい、そしてその精神を現代に引き継いでいるのが、今回紹介する「プラスフォー」である。

現代に適応した技術進化

「プラスフォー」は、基本レイアウトこそ往年の4/4と同様、フロントエンジン・後輪駆動の2ドア2シーター・ロードスター。しかしその中身は大きく進化している。従来のスチールラダーフレームは刷新され〝CXジェネレーション〟と名付けられた接着アルミ構造へと進化。剛性と軽量性は飛躍的に向上し、現代のパフォーマンスに耐えうる強靭な骨格を手に入れた。

驚くべきは、そのサイズ感だ。ボディサイズは全長3,830mm、全幅1,650mm、全高1,250mm。数値だけ見ればマツダ「ロードスター」に近いが、実車の印象ははるかにコンパクト。エンジンやシャシーにぴたりと寄り添うようなボディラインは、まさに〝着るクルマ〟のよう。ボンネットのルーバー、ワイヤースポークホイール、翼断面形状の前後フェンダーが織りなす、モーガン特有の優雅な〝ウイングシルエット〟が、唯一無二の個性を放っている。

もっとも、だからと言って「プラスフォー」が単なる懐古趣味の産物ではない。先述のアルミプラットフォームに加え、足まわりも最新の4輪ダブルウィッシュボーンへとアップデート。見た目はクラシック、中身はモダン。そんな二律背反のバランスを、絶妙に保っている。

心臓部にはBMW製の2L直列4気筒ターボエンジンを搭載。Z4にも使われているこのユニットは、6速MTまたは8速ATと組み合わされ、現代の交通環境にしっかりと適応している。直近のマイナーチェンジではLED化されたヘッドライトとシンプルなロワースプリッターが採用され、表情がより洗練された。テールも同様に、クラシックな趣とモダンな処理が美しく融合している。

情緒的かつ刺激的

筆者がモーガンに触れたのは、実に10年ぶりのことだ。当時乗ったのは2000年代初頭の「4/4」で、フォード製1.8Lエンジンを積んだ個体だった。英国車らしいBRG(=ブリティッシュ・レーシング・グリーン)のボディカラーをまとい、重厚でどこか鈍さも感じる操作感が、逆に味わい深かった記憶がある。対する最新の「プラスフォー」は、その系譜を引き継ぎながらも、ずいぶんと軽やかな印象を受けた。

相対した「プラスフォー」は淡い水色のボディカラーを纏い、コクピットへのアクセスも良好。これは新世代CXプラットフォームの恩恵でもあり、乗降性の改善も図られている。コクピット内もクラシックな意匠を残しつつ、適度に現代的。液晶ディスプレイとアナログメーターが共存するインパネまわりは、アナログとデジタルの過渡期を過ごしてきたエンスージアストには、心地よい風景に映るだろう。

3ペダルのMT車に乗るのも久しぶりだったが、操作系は非常にフレンドリーだ。クラッチは適度な重さで、シフトレバーの節度感も心地よい。カチッ、コクッとギアが決まる感触に、思わず笑みがこぼれる。取材当日は、ブリティッシュウェザーのような小雨交じりの空模様。だが、それすらも演出のひとつのように思えた。ウィンドスクリーンを3本の小さなワイパーが忙しなく動き、キャンバストップに落ちる雨音はむしろ耳にやさしい。悪天候でさえ、プラスフォーの世界では風情となるのだ。

そして走り出せば、このクルマの真価が発揮される。ドライバーの操作に、クルマが即座に応える。ステアリングを切ればスッと鼻先が入る感覚。6速MTと3ペダルのダイレクトなフィーリングは、まるで身体の延長のように感じられる。過去に体験したフォーミュラカーに近い一体感がここにある。

特に楽しいのがワインディングロードだ。ボディの軽さと剛性の高さ、足まわりの懐の深さが絶妙に絡み合い、右に左にと切り返すたび、思わず笑みがこぼれる。258PS/350Nm(ATは400Nm)を発揮するエンジンは、色気こそ控えめだがレスポンスは鋭く、ドライバーの背中をぐっと押し出すような加速感が味わえる。

つまり、「プラスフォー」はこの牧歌的なルックスとは裏腹に、正真正銘のスポーツカーなのである。それとともに、このクルマは〝仕立てる〟楽しさもある。モーガンは今もハンドメイドを貫いており、カラーや仕様は顧客の好みに合わせて細やかにオーダーできる。まさに、サヴィル・ロウでスーツを仕立てるかのような感覚。自分だけの一台が手に入る。古き良き時代の息吹を纏いながら、現代のドライバーとも確かに共鳴する。このクルマが与えてくれるのは、移動という行為にリズムと詩情を添える、極上の体験。モーガン「プラスフォー」——それは、クルマとの関係をもう一度、純粋に愛おしむための一台である。

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■関連情報
https://www.morgan-cars.jp/

文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦

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