著/ウォルター・アイザックソン
訳/井口耕二
文藝春秋 上・下各2420円
イーロン・マスクは、テスラやスペースXで圧倒的な成果を出し続けていますが、他者への共感力不足という彼のマイナス点が、実はプラスに働いていたのです。彼は結果を優先し、従業員の感情や恐怖を二の次にします。「化石燃料に依存する文明の在り方に終止符を打つ」と言うビジョン実現のために、リスクを冒し、失敗を重ねながら事業を成長させてきました。睡眠を減らして自分が懸命に働くだけでなく、部下にも同じ働き方を要求します。従来のマネジメントの枠に縛られることなく、メンバーを強制的に動かすことで、何度も危機を乗り越えてきました。「急がないと、たいした成果も挙げられないうちに寿命が尽きるぞ?」という言葉は、彼の経営スタイルを象徴。本書を読んでいると「デビルモード」時の彼の行動が、成功要因のひとつだと思えてきます。いくつものイノベーションを生み出すためには、明確なビジョンとリーダーシップ、そして妥協を許さない姿勢が不可欠です。
著/ジェフ・ベゾス
序文/ウォルター・アイザックソン 訳/関 美和
ダイヤモンド社 1980円
ウォルター・アイザックソンは、類いまれな経営者の共通点を明らかにしています。(1)飽くなき好奇心 (2)芸術と科学への愛情 (3)現実歪曲空間 (4)子どものような驚きの念 (5)猛烈に働く、この5つをすべて併せ持っているのが、アマゾンの創業者のジェフ・ベゾスだといいます。インターネットバブルが崩壊した後、アマゾンの株価は6ドルまで下落し、多くの専門家は同社の終焉を予測しました。しかし、ベゾスはこの状況にも全くひるまず、自らのビジョン実現のために行動を続けました。企業評価が低迷しても、赤字が拡大してもアマゾンへの投資をやめなかったのです。メディアや投資家からの批判を恐れず、リーダーシップを発揮し、最終的には結果を出すことで、彼らを黙らせました。リスクを怖れず、失敗から学び続けることで、ベゾス氏は顧客体験を向上させたのです。アマゾンの成功を通じて、先取りしたビジョンとアクティブな行動力が重要なことを明確にしました。
編著/張燕
訳/永井麻生子
ディスカヴァー・トゥエンティワン 1404円
ジャック・マーはアリババを創業し、「世界中のあらゆる商売を簡単にする」というミッションのもと、短期間でアリババを成長させました。学歴や特別な人脈がなかったにもかかわらず、「絶対にあきらめない」という信念のもと、マーはさまざまな困難を乗り越えてきました。彼は自身の〝平凡〟という特徴を強みに変え、普通の人々からなる〝三蔵法師式〟グループを築きます。三蔵法師と同じで、目立つ存在ではありませんが、決してあきらめないという資質をマーも備えていたのです。普通のメンバーの才能を孫悟空、猪八戒、沙悟浄のような達人レベルまで引き出すことが、彼のリーダーシップのスタイルです。マーは顧客や出店者だけでなく、社員をファンにすることで、中国にEコマースを根づかせていったのです。最近では中国政府との関係が冷え込み、表舞台に出る機会が減っているマーですが、持ち前の行動力によってこの逆境も乗り越えてくれそうです。
〈選者〉ビジネス書評ブロガー 徳本昌大さん
広告会社でコミュニケーションデザイナーとして働いた後、経営コンサルタントとして独立。複数のベンチャー企業の社外取締役やアドバイザーとして活動中。情報経営イノベーション専門職大学特任教授。