日本におけるブガッティの正規代理店であるSKY GROUP(スカイグループ)は、2024年6月25日、「ブガッティ トゥールビヨン(Tourbillon)」の予約販売を開始した。
ブガッティは、2004年に登場した1,001PSのハイパースポーツカー「ヴェイロン(Veyron)」で、自動車のパフォーマンスとラグジュアリーの概念を一変させた。そしてそれは2016年に1,500psものパワーを持った「シロン(Chiron)」に引き継がれた。これらのモデルの心臓部には、世界最先端のエンジンである8.0リッター・クワッドターボW16が搭載されていた。ブガッティと言えばW16エンジンという、代名詞をつくってから20年がたった今、まったく新しいパワートレインとプラットフォームによって、このコンセプトを完全に再定義したのが「トゥールビヨン」となる。
トゥールビヨンは、ブガッティを象徴するW16エンジンを搭載しないため、過去の伝説的なブガッティのレーシングドライバーの名前を使用する伝統はもはや適用されない。その代わりに、このクルマの個性を完璧に表現する名前としてトゥールビヨンが選ばれた。ブガッティのフランスの伝統と故郷であるモルスハイムをさりげなく連想させるフランス語のトゥールビヨンは、1801年にスイス生まれの天才時計師がフランスで発明したもの。これ以上にないほどの独創性を持つこの機構を備えた時計は、複雑につくられ、かつ美しく、時計にかかる重力の影響を打ち消し、より安定して時を刻むことを可能にする。そして200年以上経った今でも、時計製造の最高峰として崇められている。
このような機械的な永遠性を追求することが、トゥールビヨンの旅の始まりであり、真髄でもある。現在、そして次の世紀のコンクールの芝生に展示される車にとって、テクノロジーは大型のデジタルスクリーンと同様に、簡単に古くなってしまう。そのため、トゥールビヨンには、スイスの時計職人によって製作され、世界最高峰のタイムピース(時計)に見られるような細心の注意を払って仕上げられた完全アナログの機器をはじめ、決して古びることのないデザインとエンジニアの技術が数多く採用されている。これらの時計が何世代にもわたって家宝となるように、トゥールビヨンもまた、永遠の車としてデザインされている。
ブガッティCEOであるマテ・リマック氏は、次のように語っている。
「トゥールビヨンの開発は、115年にわたるブガッティの歴史とエットーレ・ブガッティ自身の言葉によって、あらゆる段階で導かれました。“ブガッティに匹敵するほど美しいものは、もはやない”というエットーレ・ブガッティの信念は、ブガッティのハイパースポーツカー・ストーリーの次の飛躍的な時代を創造しようとするデザインチームやエンジニアリングチームだけでなく、私自身にとっても指針となりました。
世界で最も美しいクルマとして名高いタイプ57SCアトランティック、史上最も成功したレーシングカーのタイプ35、そして史上最もラグジュアリーカーへの追及したひとつであるタイプ41ロイヤルのようなアイコンは、私たちのインスピレーションの3本柱となっています。美しさ、パフォーマンス、そしてラグジュアリーが、ブトゥールビヨンの設計図を形作ったのです。まさにこれまでにはない、そして、過去のアイコンのように、単に現在のためでも、未来のためでもなく、“Pour l’eternite(永遠のために)”なのです」
現代のすべてのブガッティがそうであるように、トゥールビヨンもまた「スピードによって形作られる」。時速400km以上で走行するためには、空力特性だけでなく、熱力学的にも有利になるように、表面、吸気口、尾根のひとつひとつが精巧に研ぎ澄まされる必要がある。これがトゥールビヨンの指針であり、ブガッティの歴史にインスパイアされた4つのデザイン要素(馬蹄形グリル、ブガッティ・ライン、センター・リッジ、デュアル・カラー・スプリット)を中心に展開されている。
トゥールビヨンのデザインとプロポーションは美しいが、時速400km以上で走行するクルマの巨大なエアロダイナミクスと、V16エンジン、電気モーター、バッテリーがフルに発揮する熱力学的要件のバランスをとるために、すべての面、吸気口、排気口が細心の注意をはらって考えられている。
ヴェイロンとシロンの20年以上にわたるノウハウを駆使したトゥールビヨンは、数々の特許技術を搭載している。その結果、リアウイングはトップスピード走行中も沈んだままとなり、これらの新しい軸によって生み出される力の完璧な均衡が保たれる。ウイングは低速走行時に高いダウンフォースを生み出し、減速時にはエアブレーキとして安定性を向上させる。
このエアロダイナミクスの均衡の大部分は、新しいコンセプトのディフューザーによるも。このディフューザーは、パッセンジャー・キャビンのすぐ後ろから上昇し始め、トゥールビヨンの完璧なバランスを保つために理想的な角度で上昇する。そして、まったく新しいクラッシュ・コンセプトに基づいて作られており、ディフューザー自体の構造内に完全に組み込まれているため、非常に効果的でありながら、視界から隠されオープンなリアエンドのデザインを可能にする。
トゥールビヨンのデザイン理念の中心にあるのは、象徴的な馬蹄形であり、そこからすべてのラインが生まれ、中央のボディを形作っている。その左右にドッキングされたフライング・フェンダーは、ヘッドライトの下に空気を送り込み、サイド・インテークへのマスフローを高める。このエアフローの複雑な相互作用は、フロントデザインによって、彫刻的なオーバーハングの寸法を維持しながらも、2つのラジエーターの間に大きなフランクを巧みにパッケージングしながらダウンフォースを増大させ、フロントボンネットの内外に空気を導く超効率的な冷却システムを巧みに収容している。
さらに、先進的な電動式ディヘドラル・ドアは、車内への進入を容易にするだけでなく、ブガッティ・ラインの真下やセンターコンソールにあるキーフォブ、ドア開閉ボタンから開閉することができ、ドラマチックな外観を演出する。
ブガッティ・デザイン・ディレクターのフランク・ヘイル氏は、以下のように述べている。
「エットーレ・ブガッティとジャン・ブガッティの、空気力学、革新性、不朽の美しさにおいて彼らが創造するものは独創的です。私たちは、ブガッティ・タイプ35は、馬蹄形グリルの形状に導かれ、この流線型の胴体形状へと先細りになっている部分からインスピレーションを受けています。加えて、私たちはタイプ57SCアトランティックからもインスピレーションを得ています。Sはスルバイセの略で、低くなったという意味です。機能的でありながら、クルマの極端なプロポーションを支えるボリュームを注意深く配置することは、私たちにとって非常に重要なことでした。車高が低ければ、車幅が広く見え、ホイールの大きさが強調される。馬が飛びかかろうとする姿勢のように見える。すべてのデザインの決定は、停止しているときでさえスピード感を生み出すことに向けられています。
ジャン・ブガッティが自身の車に大胆なデュアルトーン塗装を施し始めて以来、それはブガッティのデザインDNAの重要な一部となっています。それは、タイプ41ロイヤルのカラー・スプリット・ラインにインスパイアされ、ヴェイロンとシロンのコア・デザイン・エレメントとして生まれ変わったブガッティ・ラインです。新しいプロポーションと低くなったルーフラインに合わせて、ブガッティ・ラインはよりシャープにカーブを描き、ルーフを回り込むようにわずかに前傾し、サイド・プロフィールに跳躍するような動きを与えています」
デジタル技術は、進歩のスピードは非常に速く、その技術はすぐに時代遅れのものに見えてしまう。コンクール・デレガンスの芝生にトゥールビヨンが置かれるのは10年後ではなく、100年後かもしれないと想像し、インテリアのデザイン理念は時代を超越することに焦点を当てた。100年以上前の腕時計が今日でも着用され、現代のファッションやライフスタイルに溶け込んでいる時計製造の世界にインスパイアされ、デザインとエンジニアリングのチームは、キャビン内での本物のアナログ体験を開拓した。
最も特徴的なのは、時計の哲学を具現化したもので、スイスの時計職人の専門知識を結集して設計・製作された計器である。600個以上の部品から構成され、チタンとサファイアやルビーなどの宝石で作られたこのスケルトン・クラスターは、最大で50ミクロン、最小でも5ミクロンの間のみの差で作られており、重量はわずか700g。この複雑に設計された傑作は、ステアリング・ホイールの縁がその周りを回転する際に固定され、ドライビング・エクスペリエンスの焦点であり続ける。この独創的なコンセプトにより、トゥールビヨンのドライバーは、ステアリングの角度に関係なく、計器盤を一望することができる。
さらにセンターコンソールは、クリスタル・ガラスとアルミニウムの組み合わせで、スイッチ類やエンジン始動の「プル=引く」レバーの複雑な働きを見せている。このガラスは、完璧な透明度と事故時の安全性を確保するため、13の段階を経て開発された。コンソールのアルミニウム部品はアルマイト処理され、1つの金属塊から削り出されている。また、ローレット加工されたアルミニウム製スイッチは、クリスタル・ガラスの下にある複雑なメカニズムの先頭に位置する。新開発の自然吸気V16エンジンと電動パワートレインに点火する動作は、歴史的な自動車の儀式を彷彿とさせる、物理的な体験となるように作られている。
なお、Apple CarPlayや車両データを表示できる車内唯一のスクリーンは、ドライバーが要求しない限り完全に見えないようになっており、複雑に設計されたメカニズムにより、センターコンソールの上部からタッチスクリーンが展開される。バックカメラのポートレートモードはわずか2秒、フルランドスケープモードは5秒となる。
この次世代ブガッティ・ハイパースポーツカーは、コスワースの協力を得て設計された新開発の8.3リッターV型16気筒自然吸気エンジンを搭載し、2つの電気モーターを備えたフロントe-アクスルと、リアアクスルに取り付けられた1つの電気モーターが組み合わされている。合計で1,800PSを発生するトゥールビヨンは、1,000PSを燃焼エンジンから、800PSを電気モーターから得ている。これは最先端の素材と技術を駆使した驚異的な成果である。しかも軽量素材で構成されたエンジンの重量はわずか252kgとなる。
そして電気モーターは、中央のトンネルと乗員の後方に収納された25kWhの油冷式800Vバッテリーによって駆動され、4輪駆動とフルトルクベクタリングにより、究極のトラクションと俊敏性を提供する。フロントのe-アクスルには2つの電気モーターが搭載され、さらにリアアクスルにもモーターが搭載されるため、電動パワートレイン・システムからは合計800psの出力が得られる。最大24,000RPMで回転する電気モーターと、完全に統合されたデュアル・シリコン・カーバイド・インバーターを備えた電動パワートレインは、世界で最もパワー密度の高いもののひとつである。
そのe-アクスルは、インバーター、モーター、ギアボックスを含め、質量1kgあたり6kW以上を発揮する。パワー、スロットルレスポンス、トルクフィルが電動パワートレインの優先事項である一方、25kWhという比較的大きなエネルギーにより、60km/37マイル以上という非常に使いやすい電動での航続距離を実現している。
このトゥールビヨンは、大幅に向上したパフォーマンス、非常にパワフルな電動パワートレイン・システム、大型バッテリー・パックを搭載しながらも、シロンよりも軽い重量を実現している。そのためトゥールビヨンは、その軽量構造と電気モーターによる瞬時のトルクにより、並外れたパフォーマンスを発揮する。
極めて先進的なハイブリッド・パワートレインと軽量エンジニアリング、効率的なパッケージング、高度なエアロダイナミクスの組み合わせにより、トゥールビヨンは先代モデルと比較して排出ガスを大幅に削減しながらも、ドライビング・エクスペリエンスを向上させている。
トゥールビヨンは、まったく新しいシャシーとボディ構造を中心に設計されている。この構造は次世代T800カーボンコンポジット製で、バッテリーをモノコックの構造部分として一体化させた。さらにトップレベルのモータースポーツから着想を得た前例のないクラッシュコンポジット製リアディフューザーなど、数々の軽量化イノベーションが盛り込まれている。
また車体前部を流れるフロント・コンポジット・エアダクトも構造と一体化しており、高剛性・軽量構造の各部が最適化されている。例えば、フロントとリアのフレームには、低圧薄肉アルミ鋳造と3Dプリンターによる構造ブレースが採用され、先代モデルよりも大幅に軽量かつ高剛性な構造に貢献している。
そして全く新しいシャシーは、シロンに搭載されていたスチール製のダブルウィッシュボーン構造から、アルミニウム鍛造のマルチリンクサスペンションをフロントとリアに統合している。有機的に設計された新しいサスペンションアームとアルミニウムで3Dプリントされたアップライトを採用することで、エンジニアはシロンと比較してサスペンション重量を45%削減した。また、リアにはAIが開発した3Dプリントの中空翼型アームが採用され、車両ダイナミクスと空力性能を向上させている。
加えてブレーキも同様に進化しており、究極のカーボセラミック・テクノロジーが採用されている。可動式ペダルボックスと完全に一体化された特注のブレーキ・バイ・ワイヤ・システムが導入され、ブガッティが開発した車両統合型ノンリニアコントローラーを介してハイブリッド・パワートレインにつなぎ目なく融合される。フロント285/35 R20、リア345/30 R21のミシュラン・パイロットカップ・スポーツ2タイヤは、トゥールビヨンのために特別に開発されたもとなる。
なお新しいシャシーでは、デュアル・インバーターを含むデュアル独立モーターを備えたとてもコンパクトで軽量なフロントe-アクスルが、シロンと同じパッケージ・スペースに収まり、より多くのスペースを必要とすることなく、より複雑な機能を追加している。デザイナーとエンジニアはまた、クリーンシートのシャシーとボディシェルの設計の一部として、より多くの収納スペースとより大きなラゲッジコンポーネントを解放することで特注のラゲッジ一式を装着できるようになった。
トゥールビヨンは、現在、テスト段階に入り、2026年の納車に向けて、すでにプロトタイプが走行している。合計250台が製造される予定で、価格は380万ユーロ(約6億5000万円)から。手作業による組み立ては、W16エンジンを搭載したブガッティの最終モデル、ボリードとW16ミストラルに続き、モルスハイムにあるブガッティ・アトリエで行われる。
「ブガッティの歴史を振り返ると、エットーレとジャンが妥協を許さなかったことがよくわかります。エットーレが持っていた特許の数は驚くべきものでした。最もシンプルな解決策を求めるのではなく、たとえそれがまだ存在していなくても、常に最高の解決策を求めていたからです。彼はどこかに行ってはそれを作り、テストし、完璧になるまで改良を重ねました。そしてそれを美しく仕上げます。それが今日、高く評価される理由であり、私たちがトゥールビヨンとともに歩んできたすべての原動力なのです。
新しいV16エンジンを作り、新しいバッテリーパックと電気モーターを統合し、本物のスイス製時計メーカーの計器クラスターと3Dプリントのサスペンションパーツとクリスタル・ガラスのセンターコンソールを装備するのは、たしかに信じられないことです。しかし、それこそがエットーレならやったであろうことであり、ブガッティをこれ以上にない時代を超越した存在にするものなのです。そのような野心がなければ、優れたハイパースポーツカーは作れても、“Pour’eternite”(未来永久のもの)アイコンは作ません。」
関連情報
https://www.partner.bugatti.com/tokyo/
構成/土屋嘉久