メルセデス・ベンツ「Cクラス」は1982年に「190クラス」として登場したのがルーツの、ミドルクラスセダン。現行モデルは2021年10月にフルモデルチェンジし、全モデル電動化をはたしている。「AMG C63S Eパフォーマンス」は2023年10月に追加されたスポーツモデル。フロントに2.0Lガソリンターボエンジン、リアに電池とモーターを搭載し、外部充電を可能としたプラグインハイブリッドスポーツセダンだ。
「Cクラス」セダンをベースにしているとはいえ、中味はまったく別物といってもよいほどAMGの手が加えられている。外観はフロントのデザインが違う。フェンダーはノーマルより片側で40mm、合計80mmもワイドになり、サイドには「TURBO E PERFOMANCE」のエムブレムとエアアウトレット、グリルはクロームの縦バーを配したAMG専用グリルを装着している。車体も全長80mm、ホイールベースを10mm拡大している。リアはボディー同色のスポイラーと左右2本出しの角形テールパイプと、赤く縁取られた「C63S」のエムブレムが装着されている。
内装は「Cクラス」と同じだが、ハンドルは小径で握りの太いAMGパフォーマンスハンドル。左右のスポークは2本になっており、ここにメニューやMBUXの機能やAMG専用のドライブコントロールスイッチがレイアウトされている。ハンドルから手を離さずに、指先で操作できる設計だ。
シートは標準仕様ではナッパレザーの専用シートだが、試乗車はAMGパフォーマンスパッケージ(31万円)を装着していたので、よりホールドの良いシートが装着されている。ハイバックなこのシートは細身なので、後席に座っても前席の圧迫感がない形状だ。
そして、パワーユニット。「C63S」の駆動システムは直4、2.0Lガソリンターボとモーターで、連続トルク可変配分四輪駆動システムを組み合わせている。エンジンとモーターの出力はシステム出力で680PS、システムトルクで1020Nm。エンジンは476PS、545Nm、モーターは204PS、320Nmを発生する。
ただし、モーターは電池総容量6.1kWhなので、この最大数値は約10秒間の数値。実際にモーターで走行可能なのはカタログ値で15km(WLTCモード)、試乗車では11kmだった。ここでわかるのは、この「C63Sプラグインハイブリッド車のEV走行は、通常走行時に使うというよりも、自宅付近や駐車場から一般道に出るまでを静かに走らせる、という性格のモーター(EV)走行なのだ。
このモーターは、後輪アクスルに搭載されており、電動シフト式2速変速機と電子制御式リミテッドスリップデフと一体でコンパクトなエレクトロドライブユニットとしてまとめられている。電池は後輪アクスルの上方に搭載されている。そのメリットは、直接駆動によるタイムラグのない加速やコーナー出口での安定した加速などだ。
メカニカルな説明が長くなってしまったが「C63S Eパフォーマンス」で街中に乗り出してみた。細身でクッションの薄いセミバケットシートのポジションを決める。イグニッションをONにする。8パターンの走行モードからC(コンフォート)を選択。
アクセルオンで「C63S」は無音で走り出した。EV走行だ。このクルマのEV走行は、約11kmだが、走行中にEVを使い切ることはなく、約20%程度は残して、エンジンを作動させるようだ。ハンドルスポークの回生モードダイヤルを調節すると、走行中に高効率で充電が行われる。だからメーカーの言うように、自宅近くになり、EV走行用の電力が残っているわけだ。
しかも、EVだけでスタートから125km/hまでモーターだけで走行できるという。一方でガソリンエンジンで走行すると、60km/hは6速1200回転で走行する。9速ATの早めのシフトアップと、太いトルクでこのような走行も可能だ。とはいえ、これはAMGの「63S」だ。アクセルを踏みこめば、3000回転あたりから加速も鋭くなるし、エキゾースト音も勇ましくなる。0→100km/h加速は、4秒台で走り切った。
ハンドリングはコンフォートモードでも常に重めのセッティング。高速コーナーではこれにシャープさが加わる。乗り心地は硬め。前265/35ZR20、後275/35ZR20のミシュラン「パイロットスポーツ4S」のタイヤは、ややザラつきを伝えるものの、街中から高速まできちんと仕事をしていた。
ガソリンエンジンでの燃費は、カタログ値の10.2km/L(WLTCモード)には及ばなかったが、9km/L近くまで伸びた。プラグインは、電池が20%のときに、自宅(3kW)で充電(3.6kWまで対応)したら、100%まで1時間40分を表示した。この時間で100%充電できるなら、日常の足はEVのみでも対応できそうだ。電池での走行範囲から充電までを制御するAMGの電池技術のレベルの高さを体感させられた試乗だった。
文/石川真禧照 撮影/萩原文博