これまでフォルクスワーゲンは「ビートル」に始まり「ゴルフ」「ポロ」「パサート」といった、それぞれのクラスを象徴するクルマを世に送り出してきた。どれもが高い支持を集めてきたのは、同社のクルマ作りが誠実で人に寄り添うものであったからにほかならない。そんな伝統を受け継ぐ一台が、最新の「ティグアン」である。
近年、コンパクト〜ミドルクラスのSUVが世界的に人気を博しているが、輸入車の中でこのクラスの先鞭をつけた一台が「ティグアン」だ。初代モデルは、当時の「ゴルフ」と「パサート」の中間に位置する全長4.5m弱のボディをまとって登場。価格も300万円台半ばからと比較的リーズナブルで、肩肘張らない輸入SUVとして、日本市場でも強い存在感を放った。
そんな「ティグアン」の3代目が日本に上陸した。新型はフォルクスワーゲンらしい正常進化を遂げつつ、見た目も走りも、さらに洗練された印象を受ける。実際のサイズは全長4540×全幅1840×全高1655mm。初代や2代目と比べるとボディはやや長く低くなったが、依然として扱いやすい絶妙なサイズ感に収まっている。
新型「ティグアン」のパワートレインは、1.5ℓ直4ターボ「eTSI」(FWD)と、2ℓ直4ターボディーゼル「TDI 4MOTION」(4WD)の2本立て。それぞれにActive、Elegance、R-Lineという3種類のグレードが設定され、計6タイプから選べる仕組みだ。なかでもR-Lineはスポーティなグレードとして20インチの大径タイヤを装着し、バンパー開口部を大きくとったアグレッシブなスタイルが印象的だ。今回はその「eTSI R-Line」に試乗する機会を得た。
思えば初代「ティグアン」は、コンパクトSUVブームが本格化する前夜に登場したモデルだった。フォルクスワーゲンらしい実直な造りで、カジュアルかつリーズナブルな一台として評価を集めたが、時代が進むにつれてライバルも増えた。そこで2代目ではプラットフォームを一新し、機能・装備を充実。プレミアム路線へのシフトを図った。
今回の3代目は、その流れをさらに推し進めた格好だ。ベースとなる車台は新世代の「MQB evo」、つまりはフォルクスワーゲンのフラッグシップモデルであるパサートと骨格を共有する。そんな上級志向を鮮明にしながらも、全長は4.5mクラスにとどめて「ティグアン」らしさ、すなわち“カジュアルで扱いやすい”コンセプトは貫かれている。
そのうえで目を引くのは内外装デザインや機能面の質感向上である。クリーンなデザインテイストは従来通りだが、新型では空力処理が徹底され、空気抵抗係数(Cd値)を低減。その効果は、走行中の静粛性や燃費の向上にもつながっているはずである。
また、走りの質感を底上げする技術の採用も見逃せない。標準装備(一部車種を除く)される可変ダンパー「DCC Pro」は、現行パサートにも搭載される最新型。減衰力特性を細かく最適化する2バルブ制御で、乗り心地とハンドリングの両立に貢献している。
試乗したeTSI R-Lineは、20インチのタイヤ&ホイールを履くスポーティ仕様でありながら、街乗りでは驚くほどしなやかな乗り味を見せた。SUVらしくサスペンションストロークはたっぷり確保されていて、特にコンフォートモードではゆったりとした揺れ方が心地よい。
その一方で、ドライブモードをスポーツに切り替えれば、明確に足が引き締まった走りを披露する。もちろん、SUVならではの重心の高さは若干意識させられるが、ボディの動きはきちんと抑え込まれていて、乗員に不安を覚えさせるような揺れはない。視界の良さも相まって、爽快なドライブフィールが味わえる。
今回はメーカー主催の試乗会でのテストということもあり、同日に試した新型「パサート」との違いも興味深かった。1.5ℓeTSIの最高出力150PS、最大トルク250Nmというスペックは共通。車重では「ティグアン」のほうがわずかに重いが、走りに物足りなさを感じることはなかった。48Vマイルドハイブリッドシステムによる電動アシストも効いているのだろう、発進時や加速の場面でトルク不足を意識させる場面はなかった。アイドリングストップからの再始動やシフトのつながりも滑らかなのがいい。
そんな走りの面だけでなく、インフォテインメント関連の刷新も抜かりない。最新の電子プラットフォームを採用し、センターには15インチの大型ディスプレイを配置。音声認識による操作もスムーズで、日常遣いにおいてストレスを感じる場面は少ない。コクピット周りも整理され、必要な機能に直感的にアクセスできる設計になっている。こうした質感の向上は、静的にも動的にも実感できる。走りの軽快さや小気味よさを持ちつつ、全体として上質に仕上がっている。パサートと骨格や装備を共有しているのだから当然ともいえるが、このサイズのSUVに上質さをきちんと落とし込んだ手腕はさすがである。
つまりはこの最新型「ティグアン」は現代のコンパクトSUVが目指すべき理想形なのかもしれない。フォルクスワーゲンは、その名が示すとおり「人々のためのクルマ」を作り続けてきた。実用を前提に、時代に即した、人に寄り添うクルマ作り。その真摯な姿勢こそが、長年にわたって支持を集め続ける理由であるのは間違いない。
さらに言えば、フォルクスワーゲンは時代を読む嗅覚にも優れていると思う。今回の「ティグアン」は、そんな両方の要素を高次元で融合させた一台。新型「ティグアン」と日々をともにすれば、現代的なSUVの魅力を存分に味わいながら、アクティブなライフスタイルを気負いなく楽しめる、というわけである。
■ 関連情報
https://www.volkswagen.co.jp/ja/models/tiguan.html
文/桐畑恒治 撮影/望月浩彦